[主な“外部脳”としてnoteを使用しているため、こちらにはnoteから転記した文章が多くなる。もう一つの保存場所というようなイメージ]
プロフィール
HN:
Wahrheit
年齢:
35
性別:
非公開
誕生日:
1990/07/22
自己紹介:
観測・収集・編纂・断章。非ロマン思想と、ロマン的表現の両立。JubelとÜbel。精神的環世界説。
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――それは19世紀初頭、誰もが空気を読み合う肩身の狭いロンドンでの、或る朝。
世の子どもたちが校庭で「お前が言った」「いや言ってない」の無限反復をしている頃、ジョン・スチュアート・ミル――当時まだ「ミニ・スチュアート」は、家にいた。父の方針で、学校には通っていなかったのだ。
校庭では今日も、実にしょうもない「社会」が展開されていた。
A少年がB少年に消しゴムを奪われ、責められたB少年は謎の言い訳を始める。そこへ割って入ったC少年は「常識的に考えてさぁ!」と突如「常識警察」を名乗り、また、D少年は「責任は社会にある」と何処かで聞きかじった言葉で叫ぶ。
――これが「社会」である(品質はさておき、一応『社会』である)。
しかしミルは、そんな「社会」を一度も見たことがなかった。
彼の朝はギリシャ語の格変化で始まり、昼は論理学の演習で満たされ、夜には「人間とは、理性によって世界を理解する生き物だ」と父に諭されてから床に就く。
その夜も、きれいに片づけられた後の机上から、ミルが見ている夢の中まで、彼の世界は清冽だった――理性以外のノイズが、一切ない。
ミルは思ったことがなかった――「理性って、実際どれだけ使われてるんだろう?」と。だって、それを測るための「他人」の存在がなかったからだ。もちろんここにはあの朝の校庭のような「社会」もない。
ない、ない、ない――それは別の意味では「或るモノが在る」ことだった。
父の教えの中で、ミルは信じていたのだ。人間はきっと、理性的に行動するものだと。だって、そうでない人間は、ミルの視界に入ってこなかったのだから。だからミルの世界には「理性的でない人間」など居なかった――
――そして、ある日。ノイズキャンセリングイヤホンをつけたようなクリアな空気の中で、ミルはすくっと立ち上がり、何処かとても真剣な顔で父に言った。
「他人に迷惑をかけなければ、人は自由であるべきです」
父は「……まあ、そうだな」と返したが、その父も、ミル自身もまだ知らない――彼が校庭の混沌[カオス]を一度も知らず、ただクリアな理性だけを見つめて育ったことが、のちにこの原則を世界に贈る力となったことなど。
――後のミルの「自由原則」である。いまのみんなが「他人に迷惑をかけなければ、人は自由だ」と普通に思えているのって、実はこのミルという人の御蔭だったりもするのだ。
――おわり。
世の子どもたちが校庭で「お前が言った」「いや言ってない」の無限反復をしている頃、ジョン・スチュアート・ミル――当時まだ「ミニ・スチュアート」は、家にいた。父の方針で、学校には通っていなかったのだ。
校庭では今日も、実にしょうもない「社会」が展開されていた。
A少年がB少年に消しゴムを奪われ、責められたB少年は謎の言い訳を始める。そこへ割って入ったC少年は「常識的に考えてさぁ!」と突如「常識警察」を名乗り、また、D少年は「責任は社会にある」と何処かで聞きかじった言葉で叫ぶ。
――これが「社会」である(品質はさておき、一応『社会』である)。
しかしミルは、そんな「社会」を一度も見たことがなかった。
彼の朝はギリシャ語の格変化で始まり、昼は論理学の演習で満たされ、夜には「人間とは、理性によって世界を理解する生き物だ」と父に諭されてから床に就く。
その夜も、きれいに片づけられた後の机上から、ミルが見ている夢の中まで、彼の世界は清冽だった――理性以外のノイズが、一切ない。
ミルは思ったことがなかった――「理性って、実際どれだけ使われてるんだろう?」と。だって、それを測るための「他人」の存在がなかったからだ。もちろんここにはあの朝の校庭のような「社会」もない。
ない、ない、ない――それは別の意味では「或るモノが在る」ことだった。
父の教えの中で、ミルは信じていたのだ。人間はきっと、理性的に行動するものだと。だって、そうでない人間は、ミルの視界に入ってこなかったのだから。だからミルの世界には「理性的でない人間」など居なかった――
――そして、ある日。ノイズキャンセリングイヤホンをつけたようなクリアな空気の中で、ミルはすくっと立ち上がり、何処かとても真剣な顔で父に言った。
「他人に迷惑をかけなければ、人は自由であるべきです」
父は「……まあ、そうだな」と返したが、その父も、ミル自身もまだ知らない――彼が校庭の混沌[カオス]を一度も知らず、ただクリアな理性だけを見つめて育ったことが、のちにこの原則を世界に贈る力となったことなど。
――後のミルの「自由原則」である。いまのみんなが「他人に迷惑をかけなければ、人は自由だ」と普通に思えているのって、実はこのミルという人の御蔭だったりもするのだ。
――おわり。
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